大阪地方裁判所 昭和57年(ヨ)3386号・昭57年(ヨ)3647号
申請人
河野久則
同
新出兵治
同
井貝地春
同
濱砂忠明
右申請人四名代理人弁護士
上坂明
(ほか五名)
被申請人
山陽自動車運送株式会社
右代表者代表取締役
堀本靖
右被申請人代理人弁護士
竹林節治
(ほか三名)
主文
一 申請人らが、被申請人に対していずれも従業員たる地位を有することを仮に定める。
二 被申請人は、
申請人河野に対して、昭和五七年八月末日限り一八万三二三二円、及び同年九月以降第一審の本案判決言渡しに至るまで毎月末日限り二〇万八二八八円の、
同新出に対して、同年九月末日限り一五万八三一六円、及び同年一〇月以降第一審の本案判決言渡しに至るまで毎月末日限り一六万〇一四八円の、
同井貝に対して、同年九月末日限り一四万三四三九円、及び同年一〇月以降第一審の本案判決言渡しに至るまで毎月末日限り一四万九六九七円の、
同濱砂に対して、同年九月末日限り一六万一六九五円、及び同年一〇月以降第一審の本案判決言渡しに至るまで毎月末日限り一七万七二四〇円の
金員を各仮に支払え。
三 申請人のその余の申請を却下する。
四 申請費用は被申請人の負担とする。
理由
第一当事者の求めた裁判
一 申請人ら
左を除き、主文第一、二項と同旨。
申請人らは、期間につき、本案判決確定に至るまで求め、申請人新出は、一か月金一六万三二八八円の仮の支払いを求めた。
二 被申請人
1 申請人らの申請はいずれもこれを却下する。
2 申請費用は申請人らの負担とする。
第二当裁判所の判断
一 当事者間に争いがないか、または疎明資料によって一応認められる事実は次のとおりである。
1 申請人河野は、昭和五五年一月被申請人(以下、会社という。)に入社しトラック運転手兼貨物の集配業務員として勤務し、同新出は、同四八年一二月一日、会社の大阪南営業所(以下、営業所名等のみで表示する。)に荷扱手として入社し、同五六年一月一九日、神戸支店に転勤した際、職種を事務員に変更のうえ勤務し、同井貝は、同年五月か六月の末ころ、名古屋支店に荷扱手として入社し、同五七年七月二〇日ころから名古屋北支店において荷扱手として勤務し、同濱砂は、同五三年七月一八日、名古屋支店に集配運転手として入社し、同五五年八月二一日から名古屋北支店において同様に勤務してきたものである。
2 会社は、一般路線貨物自動車運送事業他の業務を目的とする会社(資本金一億六〇〇〇万円)であり、本店は肩書地(略)に置き、各地に多数の支店・営業所を有し、従業員数は約六二〇名である。
3 会社には、従業員で構成する同名の労働組合が二つ存在している。大阪に本部を置く山陽自動車運送労働組合(以下、大阪組合という。)と広島に本部を置く山陽自動車運送労働組合(以下、広島組合という。)である。これは、昭和三八年、山陽自動車運送株式会社と山陽運送株式会社が合併して会社(被申請人)となった際、夫々の従業員で構成されていた二つの労働組合が、その後も統一されなかったことによる。大阪組合は、昭和五〇年までにそれまで所属していた上部団体である全自運の組織を脱退し、現在上部団体を有しないが、広島組合は、全日本運輸産業労働組合連合(略称、運輸労連)に加盟している。会社と両組合間には、夫々同文のユニオン・ショップ協定(以下、ユ・シ協定という。)が締結されている。
4 申請人らは、いずれも、もと大阪組合に所属していたが、同組合のとってきた会社に対する態度に不満をもち、申請人新出は、昭和五七年六月一九日に広島組合に加入し、同年七月三日、大阪組合を脱退し、同河野は、同年六月二八日、大阪組合を脱退し、翌二九日、広島組合に加入し、同井貝、同濱砂は、いずれも同年七月二八日、広島組合に加入し、同年八月六日大阪組合を脱退した。
5 会社は、昭和五七年七月二一日、申請人河野に対し、就業規則第一〇二条第一一号該当の事由があったとして、同人を諭旨解雇する旨、同年八月二〇日、同新出、同井貝、同濱砂に対し、大阪組合との間で締結した労働協約第三条(ユ・シ協定)に基づき、右三名を解雇する旨、夫々通知した(以下、申請人ら各自との関係でいずれも本件解雇という。)。
二 争点
1 申請人らの主張
本件解雇は、次のとおり無効である。
(一) 申請人河野
(不当労働行為)
本件解雇は、同申請人が広島組合に加入したことを嫌悪し、不当労働行為意思に基いてなされたものである。すなわち、広島組合の活発な活動が関西地方に拡大しないように申請人を職場から排除することをねらったものであり、労働組合法第七条一号、三号に該当し、違法無効である。
(解雇権の濫用)
本件解雇は、就業規則第一〇二条第一一号を理由としているが、右条項は、汚職について定めたものであって、申請人の「不正行為」に対し、これを適用するのは失当であるうえ、制裁について譴責、減給、出勤停止、降格、転職、諭旨解雇、懲戒解雇と七種あるにもかかわらず、同申請人を懲戒解雇に次いで重い諭旨解雇に処するのは、明らかに過重な処分であり、懲戒権の濫用であり、違法無効である。
(制裁の手続違反)
同申請人の所属する広島組合と会社との間の労働協約第二九条は、「会社が組合員の制裁を行う場合には組合の意見を聴した上で行う。」と定めている。しかるに、本件解雇は、何ら右手続を履まず、一方的に強行されたものであって違法無効である。
(二) 申請人新出、同井貝、同濱砂
(不当労働行為)
本件各解雇は、大阪組合の組合員が広島組合に加入することを阻止し、活発な労働運動を展開する広島組合の活動を関西地方及び中部地方に拡大させぬことを目的とする不当労働行為であって違法無効である。
(ユ・シ協定の適用除外)
会社と大阪組合及び広島組合との間には、昭和五一年六月二一日付の労働協約が各存在しており、その第三条は、いわゆるユ・シ協定であり、「組合を故意に脱退し、もしくは除名されたものを雇用しない。」となっている。
このユ・シ協定は、大阪組合を脱退し、広島組合へ加入するという本件の如き場合には適用がない。
2 会社の反論
本件各解雇は、いずれも有効である。
(一) 申請人河野に対して
(不当労働行為)
不当労働行為に該当し、違法無効であるとの主張は全面的に争う。本件解雇の対象となった事実は、同申請人の組合籍が云々されるより遙かに前のことであり、会社は、その間事実調査を続けていたのであって、たまたま解雇が同申請人が広島組合に加入した後であったからといって、直ちに不当労働行為意思に基づくものということができないことは明らかである。
(解雇権の濫用)
解雇権の濫用により違法無効であるとの主張も争う。本件解雇の対象となった事実は、着払現収を会社に納金せず着服しようとした事実であって、職務に関し金品を得、これを着服することは、就業規則第一〇二条第一一号に該当するものと言わざるを得ない。また、着払現収については、伝票処理の上で本人が伝票とともに現金を納金しなければ、なかなか発覚し得ないものであり、このようなことを会社が容認し得ないことは明白であって、諭旨解雇に処したのは、懲戒処分の裁量の範囲内であると考える。
(制裁の手続違反)
本件解雇は、手続に関し、違法無効であるとの主張は争う。なるほど、会社は広島組合の意見を聴していないことを認めるにやぶさかでないが、労働協約で保護しようとしている利益については次の理由で実質的に守られているものと思料する。
即ち、同申請人の組合籍はもとより会社の容喙するところではない。しかし、広島組合から同申請人が同組合に加入した旨の通知に接した後、同申請人は、従前大阪組合員であったことから大阪組合にその事実を質したところ、大阪組合は、同申請人は依然として大阪組合員であると明言した。その後、本件不正行為の調査が進展し、処分を決める段階に至り、会社は、大阪組合委員長に同申請人の組合籍について再確認したところ、大阪組合委員長は、「同申請人は、大阪組合の組合員である。組合としても今回の不正事件の発生を承知しており、既に同申請人ら三名から事情を聴取しているので、いつでも組合としての意見を述べる。」との回答がなされた。
してみると会社とすれば、同申請人は大阪組合籍であり、かつ同申請人から事情聴取しており意見を述べるとのことであるため、同申請人の組合籍についてこれ以上容喙することはできず、昭和五七年七月一九日に大阪組合と協議し、意見を聴取したのであった。会社は、同申請人の解雇につき懲戒解雇に相当すると思料していたのであるが、大阪組合の同申請人に対する事情聴取の結果、情状酌量の余地があるので大阪組合とすれば罪一等を減じてもらいたい旨の申し入れが強くなされたため、会社は、その意見を尊重して諭旨解雇にとどめたものである。このように、労働協約で保護しようとしている組合員の不当に処分を受けない利益というものは、大阪組合の同申請人に対する事情聴取及びそれに基づいての会社との協議の結果、会社も罪一等を減ずる処分にした経緯からして実質的には充分遵守されているものと言わなければならない。この意味で、本件解雇を違法無効とするほどの手続違反はないものと思料する。
(二) 申請人新出、同井貝、同濱砂に対して
(本件解雇の無効)
会社と大阪組合及び広島組合との間に、昭和五一年六月二一日付の労働協約があり、その第三条でいわゆるユ・シ協定を締結していることは認めるがその余の主張については争う。特に、「本件各解雇が、大阪組合の組合員が広島組合に加入することを阻止し、活発な労働運動を展開する広島組合の活動を関西地方及び中部地方に拡大させぬことを目的とする不当労働行為であり、違法無効である。」との主張は、強く争う。本件は、本来大阪組合と広島組合との間の問題であって、会社対広島組合の問題ではない。会社は前記ユ・シ協定が締結されていることから、大阪組合の申し入れを受けて受動的に右協定上の債務の履行として申請人らを解雇したにすぎず、広島組合に対する不当労働行為意思は毫も存しない。会社はこれまで広島組合が前述のとおり少数組合であるとはいえ、大阪組合と全く同等・平等に取り扱っており、両者間の労働条件等は全く同一で差別等が行なわれた事実は全くない。
三 争点に対する判断
1 申請人河野について
疎明資料によれば、会社と広島組合との間に締結された労働協約第二九条には、「会社は、組合員の制裁を行なう場合には、組合の意見を聴した上で会社が之を行なう。」との規定が存在することが一応認められるところ、会社が同申請人に対し、本件解雇を行なうに当り、同人が右解雇の時点で所属していた広島組合の意見を聴取しなかったことは当事者間に争いがない。
ところで、使用者が従業員を解雇するに当って、その従業員が所属する労働組合と使用者との間に締結された労働協約中に、右認定のような条項の存在するとき、使用者が当該労働組合の意見を一切聴取することなくこれをなした場合、右条項が個々の従業員の地位の確保をも期して設けられた趣旨に鑑みて、特にそのような特扱(ママ)いが首肯されるべき客観的・合理的な事情の存在しない限り、右解雇の意思表示は、重大な手続義務の違反として無効と解すべきである。
そこで、この点について検討を加えるに、疎明資料によれば次の事実が一応認められる(一部当事者間に争いのない事実を含む。)。
(一) 会社に大阪組合と広島組合の二つの労働組合が併存しているのは、昭和三八年山陽自動車運送株式会社と山陽運送株式会社が合併して会社(被申請人)となった際、夫々の従業員で構成されていた二つの労働組合が統一されることなく現在に至ったことによるものであるが、右合併の後しばらくの間、両組合は、ともに相手組合との組織的統一を目標にしたことがあった。
(二) 両組合は、後記2の後段の(一)において一応認定するような事情で地域割の紳士協定を締結した。
(三) 昭和四〇年代ころから両組合の運動方針に差が生じたが、なお両組合統一の話し合いはもたれたものの、同四六年四月の春闘をめぐる運動方針の相違等から、広島組合としては、大阪組合との組織的統一は不可能との結論に至り、そのころ、広島組合執行委員長上川保男は、大阪組合委員長堂下京一に対し、電話連絡のうえ、両組合の組織統一を目標にして、それまで互に取り交されてきた約束は、一切破棄する旨申し入れ、堂下はこれを了解した。
尤も会社は、この点を争うが、(証拠略)中、会社の主張に添う記載部分は、春闘を境にして両組合の組織統一が不可能となった事実に照して措信できない(この点は、二六丁後半でも触れる。)。
(四) 広島組合が昭和五七年六月二九日、会社に対して、申請人河野が同組合に加入した旨通知し、更に、同年七月三日には、同組合の書記長金高らが来阪して、会社及び大阪組合に対して、同旨の書面通知を行なった。
(五) 会社は、前記(二)において一応認定した、両組合間の地域割協定について、互に相手組合に割当てられた地域に団結権を及ぼしてはならないとの拘束力をもつものと理解し、本件解雇を行なうに当って、予め大阪組合に対し、同申請人の組合籍について質したところ、同組合は、同申請人が依然として大阪組合に所属していると述べたため、会社としては、この問題にこれ以上容喙することはできないとして同年七月一九日、大阪組合から事情聴取したうえ本件諭旨解雇の意思表示をなした。
(六) (証拠略)(組合員の制裁に係る労働組合の意見聴取と題する書面)中には、大阪組合が右意見聴取に先立って、同申請人から事情聴取した旨の記載が存在するが、他方(証拠略)(同申請人の陳述書)中には、同申請人が、大阪組合委員長鎌本からの事情聴取の申出を、既に広島組合に移ったことを理由に断わった旨の記載が存在する。
(七) 昭和五七年七月一九日、会社本店内で開かれた大阪組合に対する意見聴取の席上、会社は、大阪組合に対して、同申請人を懲戒解雇にしたい旨発言したが、大阪組合は、罪一等を減じてもらいたい旨述べた。
以上の事実に基づき考察するに、会社は、大阪組合からの意見聴取をもって広島組合の労働協約が目的とする、従業員が不当に処分されないという利益の確保は実質的に達成されているから、広島組合に対し意見陳述の機会を与えなかった点の手続義務違反の程度は、本件解雇の意思表示を無効とする程重大ではない旨主張する。
しかし、前記(六)に一応認定したとおり、大阪組合が予め、同申請人から事情聴取を行なったかどうかは疑問があること、後記2で詳細に検討するとおり、地域割協定には団結権の自制以上の意味は認め難いこと、会社が大阪組合から事情聴取した時点では、大阪組合、会社のいずれも、同申請人が広島組合に移籍した事実を知悉していたこと、およそ労働組合の脱退・加入は当該組合員の自由であって、前記地域割協定の如きによってこれを制限することはできないこと、従って、大阪組合が同申請人の移籍を認めないとしてもこれは無効であって、会社がこのような大阪組合の態度に拘束されるべきいわれはなく、従業員の組合選択の自由を前提にすれば、大阪組合からの意見聴取が法的に意義を有し得ないことは容易に理解し得たこと、広島組合との労働協約に定めのある手続上の義務は広島組合から意見を聴取して始めて履行されるべきものであり、本件は同組合が大阪組合に対し、事情聴取を委ねたような場合ではないこと、労使関係において、特定の従業員の地位の喪失をもたらすべき解雇権の行使いかんが問題とされる場合、解雇権者が、どの労働組合から意見聴取をするのか、その場合当該労働組合が解雇権者たる使用者に対し、どのような姿勢・方針をもち、どの程度の交渉力を有するか等によって、ひいては究明されるべき事実関係の有無・程度、選択される制裁の種類・程度にも軽視し得ない差異の生ずべきことは事柄の性質上容易に首肯しうるところであるが、本件のように、両組合間に会社に対する方針に差が生じ、対抗的な関係にあると見られる状況においては、このような実際的結果の面からも、広島組合の陳述の機会が保障されるべきこと、以上のように考えられる。
以上の見地に従えば、会社が大阪組合からの意見聴取をもって、広島組合からの意見聴取に代えたことには、とうてい客観的・合理的な理由があったとは認められないので、会社の主張は理由がないといわなければならない。
してみれば、会社が広島組合に対し、意見陳述の機会を全く与えなかった点の手続義務違反の程度は、なお重大であるというべきであり、同申請人に対する本件解雇の意思表示は無効である。
2 申請人新出、同井貝、同濱砂について
会社と大阪組合及び広島組合との間に、昭和五一年六月二一日付の労働協約が各存在し、その第三条は、いわゆるユ・シ協定であり、「会社は、組合を故意に脱退し、もしくは除名されたものを雇用しない。」との記載が存在することは当事者に争いがない。
ところで、本件のように同一企業の従業員が二つの労働組合に組織されている場合において、一方の組合に属する組合員が当該組合を脱退して他の組合に加入した場合、労働組合の団結権保障が平等に及ぶ結果、一方の組合と使用者との間に結ばれているユ・シ協定の効力は、他組合籍を有するに至った右脱退者には及ばないと解すべきである。
しかしながら、本件において会社は、ユ・シ協定締結の特殊な事情に鑑み、大阪組合と広島組合間には地域割の協定が存在し、なおユ・シ協定の効力が申請人新出外二名の者に及ぶと主張する。
そこでこの点につき以下に検討する。
疎明資料によれば、なるほど次の事実または記載が各存在する。
(一) 会社に大阪組合と広島組合が併存している経緯は、既に三の1の(一)において一応認定した通りである。
(二) (証拠略)(広労委昭和五五年(不)第三号山陽自動車運送事件第一回調査調書)中には、広島組合の陳述として、「……前略……(5)申立人組合(注・広島組合、以下同じ)と並存組合(注・大阪組合、以下同じ)との統一の動きが過去にあったが、当時の併存組合の委員長が退職したこともあって立ち消えになった。(6)申立人組合は、福山以西の従業員、並存組合は岡山以東の被申立人会社従業員でもって組織されているが、この地域割は昭和四〇年ごろできた紳士協定によっている。……中略……(7)申立人組合員が岡山以東へ転勤する場合は、当該組合を脱退し、同時に並存組合へ加入している。……後略」旨の記載が存在し、(証拠略)(会社人事部長上田隆三作成の陳述書)中には、「……前略……会社合併後、両組合間で話し合いが持たれ、両組合の組織問題については、合併前のテリトリー、すなわち岡山以東は大阪組合、福山以西は広島組合という地域割(以下、地域割という。)を合併後も尊重し、相互にこれを侵さないという約束が成立しております。このため、転勤等により両組合のテリトリーを超えて組合員が異動した場合は、自動的に所属組合が変わり、或はまた新入社員が入社後三か月間の臨時の雇用期間を経て正社員に登用されたとき、ユ・シ協定により労働組合に加入する際も、この地域割に従って夫々の組合へ加入しております……後略」旨の記載及び、「……前略……会社合併後は少数組合である広島組合とユ・シ協定を結ぶことには疑義があったことと思いますが、この点については……中略……大阪・広島組合間の組織に関する約束により、同一事業場内において両組合員が混在するおそれはなく従って、広島労組との協約の効力は、おのずから福山以西の事業場に限定されるため、少数組合である広島組合とユ・シ協定を結んでも岡山以東をテリトリーとする大阪組合の組織には影響を与えないこと、広島労組については、ユ・シ協定の締結により組織強制が可能となり、このため組織が安定すること等の判断のもとに、広島労組の強い要求を受容れ、ユ・シ協定を結んだ……後略」旨の記載が各存在する。
会社は、これらの疎明関係を前提にして、両組合間には地域割の協定が存在し、両組合は、右地域割の区域外には、相互に自己の組合としての団結権を及ぼし得ない拘束を受け、その結果申請人新出ら外二名の者が広島組合の地域割の区域外に居住している以上、同組合籍を有するに由なく、ひいては大阪組合のユ・シ協定は、なお同人らに及ぶとするもののようである。
要するに、本件において問題点の核心は、いうところのユ・シ協定締結の特殊事情が、広島組合の団結権の空間的限界を、右地域割の範囲内に制約するに至る程、強度に特殊なものであるかどうか、そのことによって、右申請人らの広島組合への加入が無効とされるのかという点にある。
そこで更に検討を進めるに、疎明資料によれば次の事実が認められ、右認定に反する限り前記疎明は措信できない。
(一) 地域割協定締結の経緯は次のとおりである。
即ち、会社合併と同時に、両組合の三役が逢い、将来の組織問題について話し合った結果、当面は共闘及び組織の交流を図り、できるだけ早い時期に組織の統一を実現させる旨及び同一企業内に二つの組合が併存することにつき、双方の労働条件、労働協約は同一でなければならない旨夫々意見の一致が確認され、右確認に基づき、その後各組合が会社と団体交渉を行ない、今日両組合が会社との間で締結した各労働協約の内容は同文となった。
昭和三九年五月ころ、広島組合執行委員長上川保男と大阪組合委員長堂下京一が、人事移動によって転勤のあった場合の組合員の身分について話し合った結果、両組合間には組織統一の共通目標があるので当面の地域割として、大阪組合は岡山―東京間の事業所に勤務する従業員で構成し、広島組合は、広島―福山間の事業所に勤務する従業員で夫々構成する旨の紳士協定を締結した。そして会社もこれを尊重した。
(二) なお、両組合の労働協約中、殊にユ・シ協定を規定する部分に、両組合の地域割を前提とする条項は存在せず、右地域割約束の形式も「紳士協定」とされるが、この言葉の意味は、互に相手を信頼する取り決めであって、法的拘束力を有しないものと解される。
以上の事実関係によれば、地域割の紳士協定は、両組合が組織統一を共通目標としていた時期に、一方で共闘と組織間の交流を図りつつ、他方で自己の組合としての団結権を、しばらく相手組合所属の組合員の勤務地域に拡大させないよう互に自制して、既存の地域的な先占区域を尊重し、併せて両組合相互の信頼関係を高め、もって組織統一の前提条件の整備に資することを期したものというべきである。
また、会社の主張するところによれば、少数組合である広島組合が多数組合である大阪組合に対して、組織の維持を図る必要があり、広島組合所属の組合員が大阪組合に移籍するのを制約するため、広島組合が会社に対し強くユ・シ協定の締結を求めたというのであるが、労働組合のいわば本質的な権利ともいうべき団結権を自ら一定の地域的範囲について放棄するのと引換えにしてまで広島組合が大阪組合の団結権行使からの脅威に備えなければならなかった(そのようなユ・シ協定の有効性は別論とする。)ような経緯は、右の事実関係からはとうていこれを窺い得ないといわなければならない。
してみると、地域割の紳士協定に、暫定的な団結権の自制以上の意味を認めることは不可能である。
いずれにせよ、その後、両組合の運動方針に差が生じ、昭和四六年四月には両組合の組織的統一を前提に取り交わされてきた約束は破棄されたことは既に三の1の(二)において一応認定したとおりであるが、前記のような地域割協定締結の意図・形式に鑑み、組織統一という前提が崩壊した時期に終了したとする同申請人らの主張は、この点からも合理性がある。
尤も、この結果現在に至るまで、転勤等により地域割を越えて組合員が異動した場合、当然に所属組合が変わり(但し、相当長期間このような異動自体が存在しない。)新入社員が入社後三か月の暫定の雇用期間を経て正社員に採用された時、ユ・シ協定に従って加入すべき労働組合も地域割に従って夫々の組合に加入する取扱いがなされており、地域割に反する事態は、事実としては、本件が最初であることは疎明資料から明らかであるが、このような事実上の取扱いは、地域割についての会社・両組合の夫々の便宜を根拠づける理由にはなり得ても、それを越えて広島組合の団結権の制約の根拠とするには、なお薄弱であるといわなければならない。
以上の通りであるから、広島組合の団結権は、地域割の制約に服することなく会社の事業所の存在する全域に及ぶべきものであるから、事理の当然として、申請人新出外二名の者は、広島組合の地域割の区域外の事業所に勤務するままで有効に広島組合員たる地位を有するものであり、ひいて大阪組合のユ・シ協定の効力は、同申請人らに対して及ばないから、右ユ・シ協定に基づきなされた本件各解雇の意思表示はいずれも無効である。
3 かくて、申請人らはいずれも会社に対して雇傭契約上の地位を有するものというべきところ、疎明資料によれば会社が申請人らに対する本件各解雇の意思表示が有効である旨主張して就労を拒んでいることが一応認められるが、右は会社の責に帰すべき事由による債務の不履行であり、申請人らは、いずれも会社に対する賃金請求権を失わない。
四 賃金
1 申請人らが、会社から毎月一八日しめ切り、末日払いで賃金を受領していたことは当事者間に争いがない。
2 疎明資料によれば、本件各解雇がなかったとしたら申請人らが毎月末日に受領すべき賃金額は、申請人河野につき二〇万八二八八円、同新出につき少なくとも一六万〇一四八円、同井貝につき一四万九六九七円、同濱砂につき一七万七二四〇円であると一応認められる。
ところで、疎明によれば、申請人河野については、昭和五七年七月分賃金のうち二万五〇五六円が、同新出、同井貝及び同濱砂については、同年八月分の賃金のうちそれぞれ、一八三二円、六二五八円及び一万五五四五円が会社から各支払われていることが一応認められるので、同河野が同年八月末に受領すべかりし賃金は一八万三二三二円であり、同新出、同井貝及び同濱砂が同年九月末に受領すべかりし賃金はそれぞれ一五万八三一六円、一四万三四三九円及び一六万一六九五円である。
五 必要性
疎明によれば申請人らはいずれも、会社から受領する賃金を唯一の生活の糧とする労働者であることが一応認められ、第一審の本案判決の言渡しを待っていては著しい損害を蒙むる虞れがある。
申請人らは、本案判決確定に至るまで賃金の仮の支払いを求めているが、本案の第一審判決において申請人らが勝訴すれば、仮執行宣言の付される蓋然性が高いから、右以降の分については保全の必要性があるとは言い難い。
六 結論
以上によれば、申請人らの本件申請は、主文第一、二項の限度で理由があるから、保証を立てさせないでこれを認容し、その余は失当として却下し(疎明に代えて保証を立てさせることも相当でない。)、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九二条但書きを適用して主文のとおり決定する。
(裁判官 平井治彦)